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「兄上兄上。私のことをどれぐらい愛していますか」
恋にのぼせ切った関興は、その晩、同じ布団の中の兄に尋ねた。
初めて恋人を持った若人が、その恋人にしてみたくなる質問の筆頭だろう。
しかし本当に口にするかどうかはその人の聡明さ具合による。
関興はあまり利口とは言えないようだ。
「ん? どのくらい、と言われてもな」
超過勤務をこなした上に家で待ちかまえていた弟に肉体労働を強いられ、もう関平は寝入るばかりだった。それに、このような漠然とした質問に答えるに彼は元々向いていない。なかばうとうとしながらそう返した。
「では私のことが何番目に大事ですか。この世で何番目に」
「うん。そうだな、三番目かな。父上と、伯父上の次に」
「ええ!?」
それっきり兄は眠ってしまったが、関興が一晩中寝られなかったことは言うまでもない。
「おや二兄、お早いですね」
寝た振りをして、兄が出仕したのを見計らって起きてきたのだが、それでも関興の起床時刻としては早い方だ。
この三兄弟は、関平はもちろん早寝早起き、関興は宵っ張りの朝寝坊であり、関索ときたらいつ寝ていつ起きているのかさえはっきりしない。
「いや、眠れなかったご様子ですね。どうやらお悩みらしい」
いつもながら嫌な奴だと思ったが、しかしばれているならせめて利用すべきだろう。
「なあ。お前、今、女が何人いる?」
「うーん」
関索は右手を出して、親指、人差し指、と順々に折って行った。
「まあ、大体五人ぐらいですか」
恋人五人"ぐらい"というのは、兄一筋の関興には納得できない単位ではあったが、だがしかし、弟の生活を見ているとそんなものだろう。
「もしその女達に、自分がどれぐらい好きか、自分は何番目かと聞かれたらどう答えるんだ」
「当然、この世で君が一番だと、そう即答するに決まっているではありませんか」
「五人全員にか」
「五人全員にですよ」
どうにもしれっとしている。自分の悩みとはまた逆の存外な答えに、関興はいらいらして言った。
「本心は! 本心ならどうなんだ」
「そうですね、まず十番以内は無理でしょうかね。しかし恋人に本心を言ってどうするんです。馬鹿正直にそんなことを言うのは、長兄ぐらいのものでしょう。二兄は何番だったんです?
三番目ないし四番目というところかな」
「うるさい!」
図星を差され、関興は怒鳴ると出て行った。
狭量な関興にとって、自分の不幸を癒すにはもっと不幸な人間をみつけることが肝要であった。
そこで従兄のところにやってきた。しかし。
「ああ、これは。お邪魔だったかな」
張苞は恋人を呼んで仲よくお茶を飲んでいるところだった。
張苞はこれまで江陵にいる間は宿舎住まいをしていたが、今度から官舎を一軒借りている。家人も置いて彼らしくない小ぎれいな暮らしをしており、どうやら本気で彼女と所帯を持つつもりらしい。
先立って成都に戻った時に父親に一応の了解を取りつけたようだ。庶民の娘をめとることに張飛も難を示しはしたが、自分の嫁取りもかなり法外であったのでうるさいことは言えなかったのだ。
しかしこのことを、張苞はまだ彼女に話せてはいないようだが。
「かか、関興様!」
その彼女は関興を見ると飛び上がって興奮し、手を握りあわせてもじもじとした。
「やだ、関興様。光栄です。お話しできるなんて夢のようですわ。ああ、ああ、どうしましょう。友達に自慢しなくては」
真っ赤になった頬に手を当てる。
関興は貴公子然としてそれににっこり笑って見せた。
家では寝巻をよれよれにして目の下にくろぐろ隈を浮かばせていた関興だが、生来非常な見栄っ張りである彼は外出に際してきちんと身なりを整え、糊の効いた袍を着こんでいた。そして、ここまでの道中、道行く人に今日も関興様はご立派だと噂され、だいぶ鋭気を取り戻していた。
「一番大事な人同士二人切りでいるところを、済まなかったね」
「いいえこんな人、なんでもないんです。私の一番は関興様ですわ。お近くで拝見するとなお一層ご立派ですわ関興様」
「はは」
怒りと憎しみで口がきけなくなっている張苞を尻目に二人は談笑したが、関興はどうも複雑な気分だった。
初対面の相手に一番だと言われるとは。では自分が兄にした質問はなんだったのだろうか。
娘の言うことが好意とは分かってどうもぴんとこないし、特別うれしくもない。
自分はどうしたかったのだろう。
家に戻ると門前で兄と出くわした。まだ日が落ち切らない時刻だ。
役人の勤務時間は午前中だけだから、正午すぎなら何時に戻ろうが自由なわけだが、兄がこんなに早く帰宅するなど極めて珍しい。
「なんだ。お前が昨日、一緒に過ごす時間が少ないとめそめそ言うので、だから無理に早く戻ったのではないか。父上より先に退出してしまって、気が重いのだぞ」
「わ、私のために?」
──う、うれしい。
喜びのために関興は目がくらんで倒れそうだった。
──ああ、例え兄上の百番目でもいい。私は、私は兄上がこの世で一番好きだ。
そうだ。ただ、そう言いたかったのだ。「ではお前は?」と聞き返されてそう答えたいがために、兄に尋ねたのだ。
ただそう伝えたかった。自分がいつでももどかしいほど兄を愛していることを、これ以上なく一番に愛しても足りないぐらいであることを、言いたかったのだ。
浮き浮きして馬をつなぐ関興に、兄は笑顔で話しかける。
「そう言えば、昨夜お前が三番目と言ってしまったが、あれは間違いだ」
「え」
どきりと動悸がした。あの時は寝ぼけていてあんなことを言ってしまったが、すまなかった、やはりお前が一番大切だと、そう告白されるのだろうか。
「で、では、」
「父上と、伯父上と、民の次で、四番目だな」
「兄上!」
関興の悲痛な叫びが夕暮れ時に響いたが、兄は特に罪悪感もなく、むしろ誤りを訂正してせいせいしている様子だった。
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