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風雨対状ふううたいしょうとは、夜、雨の音を聞きながら、仲のよい兄弟が枕を並べて寝ること。もちろん、彼らの場合、ただ眠るだけでは済まされません。



 兄を見おろして、その顔を眺める。
 苦しそうにゆがめられたその顔。しかし、兄を懊悩させているのが苦痛ではないことをすでに関興は知っている。こうしている間にも、兄のもらす色めいた声から、触れた肌の反応から、深くつながった場所から、ありありとそれが分かる。
 腹の底から湧きあがってくる満足感は、ただ一人で夢中になって快楽を追っていたころとは格段の違いがある。
 これが征服感というものか。
 もう自分は、兄を喜ばせることができるのだ。
 そうなのだ。

 関興は、兄の膝裏を押して大きく足を広げさせ、体重をかけて最深部まで押し入った。
「う…っく」
 兄が歯をかみ、肩を支えに大きくのけぞる。きつく締めつけられて思わず促されそうになるのをぐっとやり過ごし、余裕を取りつくろって関興はゆっくり、大きく動いた。
「ん…、ん……」
「はあ。最高です、兄上」
 言われて兄が顔をそむけたのが一瞬気にかかったが、行為に夢中ですぐに忘れ去ってしまう。
 体を倒して口づけを求め、舌を吸い、兄が陶酔してそれに応えるのを見れば彼は次第に自制を忘れた。
 動きの速度を激しく高め、一心に頂上を目指した。
「うっ、あ、兄上!」
「あっ、はっ、ああ!」
 登り詰める兄を抱き締めながら、関興も終わった。

「はあ、はあ」
 力なく横たわって息を乱している兄の姿を見ると関興はふたたび欲望を覚え、腕に引き寄せようとした。
「いい加減にしないか! 興!」
 思いがけず強くたしなめられて、関興は小さくしゅんとなってうなだれる。
 自分の内心の都合からつい強く言ってしまったのを悪かったと関平は思ったが、訂正するのもおかしかろうとそのままにした。
「兄上はあきれておられるのでしょうね」
 顔を上げないまま関興はぼそぼそと言う。
「私が有頂天になって、際限をなくしているのを」
「そんなことは」
 関平がはっきり否定しないので、関興はますますうなだれる。
「こんなことばかり考えているわけではないのですが。ですが兄上、どれだけ抱いても足りませぬ」
 あまりに素直な弟の言葉に関平は後悔してその手を取った。
「別に、興、別に怒ったわけではない」
 しかし、その先が関平にはうまく説明できなかった。
 怒ったのでないのならなんなのだというのか。
 弟は落ち込んだままで、その点強く追及する元気はないらしい。かわいそうだが好都合だ。しばらくそのままでいてもらおう。
 喜びの絶頂にあるのだとそう言う弟とは対照的に、こんな状況になるぐらいなら、以前の方がずっとましだったと、関平は困り果てているのだ。
 関興の頬に手を当てる。青年になりかけの肌はみずみずしかった。その若さを確かめるように首筋から胸元をなでて、そのまま体に腕を回すと、肩口に頬を寄せて体を預けた。
 胸板の厚いたくましい体。自分一人ぐらい支えることは彼には訳なさそうだ。すがってすべて話してしまおうか。どうしたらいいのか分らないのだと、言ってしまおうか。
 いや、それはできない。自分は彼の兄なのだ。
 一方で、兄がこんな甘えた様子を見せたのははじめてのことだと、関興は感動して兄の体を抱いた。
 若さのためか単にそういう体質なのか、関興の手の平は熱く、ひとところにじっと触れられると肌が焼けそうだった。弟の熱にならとかされてみたいとふと考えて、弟と情を交わすようになってからの自分の思考が退廃的なことに気づいた。
 恋とはそもそもそうしたものかも知れないが、関平にはよく分からなかった。
 性愛に裂く時間があれば剣を握って生きてきた彼の意識は極めて健全かつ単純明快なもので、平たく言えば、善か悪しかない。
 しかし善悪とは主観的なもので、己が正しいと思うものが善であり、そうでなければすなわち悪である。
 恋は善か悪か。善だろう。それは分かる。
 しかし、恋に傾倒し過ぎることは、一体、善なのか。分からない。
 よいことのようでもある。間違っているようにも思う。彼には難しすぎた。
 とは言え、頭がそれを決める前に、心と体がすでに決めてしまった。
 感情に溺れはしないが、感情に抵抗することはなおしない関平は、今は自分の心身がゆっくりと、確実に弟のものになっていくのを途方に暮れつつ傍観していた。
 関平が弟の熱にひたって思考している間、関興も腕の中にある兄の体に満悦していた。
 しかし、若いだけにそれだけでは収まりがつかない。体をなで、兄の唇に自分のそれで触れる。次第に口づけを深くしながら兄の体を横たえ、そのまま濃厚な愛撫を絶やさないままで、今度は兄の諌めがないのをいいことに、その内部に入り込んだ。
 関平は驚いて関興の舌を少しかんでしまった。
 ほんのしばらく前まで、こんな器用な芸当はできなかったのに。
 上達しているのだとそう思うと、少々気恥ずかしく、しかし体の芯がうずくような喜びもある。
「ん、ん……」
 唇を離さないままでしばらく体を揺すっていたが、たちまち関興はそれでは物足りなくなり、自分のこらえ性のなさに舌打ちしながら体を起こして関平の足を抱えて強く腰を打ちつけた。
「あっ、ああ! うっ、くっ、うう」
「あ、兄、上」
 すがるものがなくなって敷布や枕をつかんでいる関平の手を取って唇を寄せると、関興は自分の肩をつかませた。
「興、ああ、興!」
 叫んで関平は背をそらせた。
 追い詰めると兄は自分の名を呼んでくれる。そこで彼は、ぞっとするほどの満足感を得るのだ。
 今回はこらえがまるできかず、独りよがりに頂点を目指すと、体を倒して中に出した。

 大の男が二人で眠るには普通の寝台はさすがにせま過ぎる。
 大体にして、二人ともが標準を上回った体格なのだ。
 しかし、今は、冬場はいい。しっかり抱きよせて眠らなければ転げ落ちそうなこの幅はいい言い訳になる。
 関興が安心してそう考えているのと裏腹に、兄はそっけなく起き出すと衣服を整え出した。
「部屋に戻られますか、兄上」
「こんなに窮屈では、風邪をひこう」
「…。前には、朝まで一緒にいらしたではないですか」
 そう言いはするがしかし、今夜の自分のやりようはあんまり性急で自分勝手だったと、そう自省している彼は食い下がることはできずにいる。
 兄があきれ、これ以上つきあわされてはたまらないと考えるのも無理はない。
 関平には弟の考えていることはすっかり分ったが、またしても訂正せず、それ以上一言もしゃべらず、背を向けて回廊に出た。
 戸を閉じたところで、思わずため息がもれる。
 かわいそうな真似をしていると自覚している。自分は冷たい兄だ。しかし今は、自分のことで手いっぱいだ。
──分からない。どうすればいい。
 正しければ進めばいい。誤りならば正せばいい。しかしこれは、どちらでもない。
 どうしたらいいのだろう自分は。
 弟との情欲に溺れることへの羞恥を、気性のまっすぐなあの弟に、一体どう納得させたらいいのだろう。


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