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 しりぞけようとつかんだ二の腕が堅いことに関平は動悸を覚えた。
 弟を見上げ、その頬に浮かぶ男臭い笑い方に彼はいよいよ行き詰まりを感じる。
 子供のころは、ふかしたての饅頭のようにふかふかとした頬をしていた。
 今では日焼けした肌の下のそこここにたくましい骨格がある。
 彼はもう一人前の男なのだ。
──いや違う! 興は弟だ。いつまでも私の弟だ。
 しかし自分を抱く腕の力強さを関平は恐れた。
 今、弟に体を任せれば、自分はどうかなってしまう。

「兄上?」
 妙に無口な兄に関興は反応を促す。
「…。なんでもないのだ」
 歯をかみ、努めて平静を装うが、しかし体を密着させているのだからその変化は隠しようがない。関平のものが高ぶっているのを関興は捕らえ、愛しく愛撫する。
「兄上。うれしいです。兄上が欲情してる。私に。私だけがいつも欲しがっているのではないと、そう思っていいのですね」
 そこを柔らかくしごきながら尋ねる。これではなにを聞かれても隠しおおせず本心を答えてしまいそうだ。
「ん…っ」
 やんわり追い上げられて、じきに関平は弟の手をぬらし、顔を隠してその肩口に額を寄せた。なまめかしい息が胸にかかって、関興はもう我慢ならなかった。兄の肌を濃厚に愛撫する。
「ふ…っ、あ、ああ…」
 肩をなで、胸に触れ、そうして関興はいつもと具合が違うことに気づいた。
 いつも男性の証に触れでもしなければ快楽を返さない兄が、どこに触れても声を上げるのだ。
「う…っ、くっ」
 やるせなさそうに。
 関興は信じられない思いで、確信を深めるためによりいっそう熱を込めて兄の体をなでまわした。
 そんな弟を、耐えられず関平は押しやった。
「よせ、今夜は」
「なぜです。だってこんなに」
「お、おかしいのだ体が。なんだか、私は、あっ!」
 そうする間にもわき腹をなでられて関平は大きく声を上げ、自分で驚いて口を覆った。
「な、なぜ。こんな」
 関興は感動して言った。
「なにも不思議ございませぬ。やっと兄上の体が私を欲しがって下さった。兄上を抱けばいつだって私はそうなります。なにをしてもされても、快感におかしくなりそうです」
 手をどかせて口づける。お互い舌をからめるのがごく当たり前だった。

「あ…、興。あ……」
 身の毛がよだつような異様な感覚に、関平はたまらず声を上げた。
「あ、あっ」
 兄の反応が明らかにいつもと違うのを、関興は欲を高ぶらせて見下ろす。
「な、なんでも。ん…」
 言いながらも関平は息を詰め、唇をかむ。
──感じているのだ。
 関興は沸きあがってくる喜びをかみしめながら体を寄せた。
 弟の体温に肌がぞくりとする。
「こ、興。あっ、ああ…」
「私にすがって下さったらいい」
 関平に自分の背を抱かせ、自分でも兄の腰を抱いた。体を伏せ、互いの肌の感触を楽しむ。
──今までは、ただ自分が望み、ただ自分が手に入れるだけだった。
 しかしそれは違う。今夜は違うのだ。
 関興が夢中になって兄の体のそこここをなで、そして唇で吸う間、以前であれば拒むでも求めるでもなくただ許していた兄が、痛いほど抱きしめ、足をからめてくる。
「兄上、もう、入れていいですね」
 あまり辛抱強い方とは言えない弟が上気しきった様子で尋ねてくるのに、関平はいたしかたなく、羞恥をこらえてうなずく。
「く、う」
 兄の手が強くしがみついてくるので、その快楽のほどが関興にもうかがえた。
 痛いのならただ黙ってこらえるだろう。兄はそういう性格だ。
 これと定めた目的のためなら、他のなにもかも、当たり前に貴重なすべてを排してでも成し遂げる性格であり、また、そうすることを喜ぶ性格だ。
 自分とはまるで違う兄のそんなところが関興には理解しがたくもどかしく、彼をながらく苦しめた。
 しかし今となっては、それも大したことではなかったように思われるのだから不思議だ。

 関興が体を動かし、抜き差しして角度を変えるたびに兄がうめくので、関興は激しく征服欲に駆られる。
「うっ、うう」
 関平は切なげにまぶたを伏せた。
 それが辛いがためかどうかぐらい、彼にはもう分かる。
「兄上。好きです、兄上」
 熱っぽくそうささやきかけられて、関平は肌を震わせる。
──ああ、興!
 関平にとって、彼はずっと弟だった。
 大事な大事な弟であり、なにを分け与えても惜しくないほど愛しい弟だったが、しかし依然として弟だった。
 そう思っていた。
 そうでなければならないと思っていた。
 自分は弟に対して責任がある。弟を、彼が成るのにふさわしい立派な男に成さしめる責任がある。
 よしんば弟が自分に溺れても、己が彼に溺れたりなぞしてはならないのだ。
 そのはずだったが。

 息を詰めて関平は登り詰め、そして深く息をついた。
 そして関興も、それを鑑賞した後、それにならった。
「はあ、はあ」
 突っ伏して余韻をこらえる兄を抱き寄せ、今度こそ身も心も一つになった満足に関興はひたった。
「兄上、よかったのですね」
「…」
「そうではないのですか?」
「お前は、」
 関平は顔を背けてこちらを見ようとしなかった。
「なんですか」
「お前は、お前は悪趣味だ!」
「でも私はうれしいのです。私はとても気持ちがよかった」
「私はお前をそんな風に育てた覚えはないぞ」
「残念ながらこのように育ってしまいました」
 開き直って関興は言った。
「兄上はお怒りかも知れませぬが、ですが」
 関興は言葉を切って、兄に笑いかける。
「興は至福を味わいました」
 実に幸せそうに言うのを聞くと、相変わらずの兄の甘さで関平は黙殺できない。
 向き直り、互いに正座すると、弟の手を取った。
「…。すまない。それは私もだ、興。照れ隠しに怒ったりなぞして、悪かった」
 兄はなんと心の素直な人だろう。
 関興の覚えている限り昔から、兄はこうやって心のままを向けてくれた。
 彼が持ちうるだけの愛情を向けてくれた。
 兄は自分と気性がまるで違うし、いささか自分に対して評価が大に過ぎるところもある。
 兄の望みに沿うことは時に難しく、それでいて矜持の高い自分はそれに逆らえず時に重荷である。
 どうにか兄に体面を保とうとしてやっきになり、自分で自分を追い詰めるが、しかしいざ正直にみっともなく本心をさらして許されなかったことはないではないか。
 兄に言葉をもらって関興は無邪気にはしゃぐ。
「それはようございました。毎晩でもお相手します」
「それは遠慮する。お前相手では到底こちらが持たぬ」

 ひとえだけ羽織って体を持たれかけさせてうとうとし、弟の大きな手の平が温かくて気持ちよく、交情後のふれあいと思ってさせるに任せていた関平だが、その手が次第に冗談で済まないほど熱心になってくるのに慌ててさえぎった。
「こ、興」
「せっかくですから兄上、今のうちにもうひとたび」
「なにが今のうち! なにがせっかくか!」
「ですが兄上の体は応えて下さっているでしょう」
「お前がしつこくするからではないか」
「なんと冷たいお言葉。これでもですか」
 意に反して既に熱を持ち始めているそこに関興は手を伸ばした。
「あっ」
 柔らかく握って、ゆっくりと上下させる。
「私の手が好きだと、さっきおっしゃりましたね」
「はあ、はあ」
「気持ちがいいですか」
「うう」
「答えて下さい、兄上」
「…」
「兄上」
 関興は手を休めないまま兄を問い詰めた。
 いささか意地が悪かったかも知れないが、兄はきっと自分を許すだろう。昔から、そうに決まっている。
「…。気持ちが、いい」
 関平はなかば朦朧として、弟の腕にすがるようにして言った。
「いい。とても、興」
「そうでしょう。私も、気持ちがいいです」
 関興は再び兄の体をおおい倒すと、そのまま膝を進めて体をつないだ。
「う…う…、ああ」
 二度目のことで、関平の体は緩やかに弟を迎え入れて包み込む。
「とてもいいです、兄上。極上です」
 関興がその感覚を惜しんでしばらくじっと身じろぎもしなかったため関平は耐え難く、じれて弟の肩や腕を掴んだが、促されて彼の首筋にしがみついて収まった。
「動けますか」
「で、できぬ」
「体をゆすって下さればいい。いささか背をそらすようにして。そう」
 言われるがままに関平は体を動かす。
「くっ、うう」
「上等です。それでいい」
 いささかいい気になって、関興も動き出した。
 つき上げるたびに兄が押し出されるように声を上げるのを喜び、関興は更に激しく兄を追い詰める。
「はあ、はあ、興、こ、興、もう…!」
「あ、兄上!」
 互いの耳に掛かる吐息が、浅いせわしないものからうっとりとした長いものに切り替わったのはほとんど同時だった。

 その後、何度求めあっても体が冷めず、結局二人は明け方まで睦みあっていた。
 いくら抱いても足りないのは関興にはいつものことだったが、昨夜は兄の体が求めてくるので歯止めがきかなかった。
 しかしなにも一晩中のべつまくなしに激しく求めあっていたわけではない。時にはそうしたが、ただ静かに互いの体を抱いているだけのこともあった。自然に互いに高ぶればまた体をつないだ。
 関興の方で欲しくなると兄も熱くなり、兄がどこに愛撫を求めているか、いつ口づけを欲しがっているか手に取るように分かるのだった。

 先に眠ってしまった兄を見つめて、抱き寄せた。今はもう遠慮なくその体にふれられる。彼の体は、そして彼は、自分のものだ。ようやく自信を持ってそう言える。
 まだ幸せに浸っていたかったが、疲れ果てて目が開けていられない。
──ろくでもない夢ももう見る気づかいはないのだし。
 嫌な気分の時に悪い夢を見て更に落ち込む自分の悪循環を恨めしく思うこともあったが、こんなに気の晴れやかな時にはありがたい。
 兄を腕の中に抱き直し、今夜はよい夢を見るのに違いないと意気込んで関興は目を閉じた。


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