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 父は一体どういうつもりなのだろう。
──そしてなにより、私はどういうつもりなのだ。
 ふたたび父の腕の中にいて、関平は考えた。

 負傷した時、自暴自棄になったわけではないと父に言った。
 それは本当だった。関平はかつて自棄になったことなどなかった。
 思い返せば自分は幸せ者だった。なにも知らなかった。本当に苦しい思いなど知らなかった。
 今初めてそれがどういうものか思い知っていた。
 明日がどうなろうが、自分の性根がどんなに悪かろうが、どうだっていい。
──もうなにもかも、どうとでもなるといい。
 ただ今はなにも考えたくない。
 こうしていれば、考えずに済むのだ。
 父の愛撫が深くなってきたので、関平は考えることをやめた。

 音を立てて口付けをする。
 ぬれた舌がからむ音が夜闇によく響く。そしてわざと音を立てた。
 もう倫理など壊れてしまった。ならばなるだけそこから遠ざかってしまいたい。
 真正直だと思っていた自分など嘘だったのだ。ただ無知なだけだった。
 そのまま父の唇が下って股間におりていくのを見送る。
「ふ…」
 生暖かく包み込まれて腰が揺れそうになる。
──こんなことより。
「は…早く。う…う」
「よし」
 関平が引きはがすと、その意図を悟った関羽は関平の体を慣らし始めた。

 ただ手で肌をなでているだけなのに、なぜこうも悦楽を生むのだろう。
 今も父の手の平が肩から上腕へすべったただけで、関平は体を震わせた。
「はあ、はあ。あ…あ」
 多くの人が欲に溺れるのも今なら分かる。誰も苦しいのだ。
 父も苦しんでいる。この父でさえ。自分が苦しまないはずがあろうか。
 それでもこうしていれば、今は心地いい。
 意味あって求められているのではないと分かっている。それでも、すべての意味あるものを塗りつぶしてしまうほどの快楽をこれは与えてくれる。

「ああ…あ!」
 父のものが入り込んできたので、関平は意識して力を抜いた。
「もう少し、足を開け」
 うなづいて、従う。
 関羽はそれを受けて太股の裏を押し、根元まで押し込んだ。
 体の中で父が脈打っているのを関平は感じた。
「平」
「うう…」
 呼ばれたのに応えて首筋にすがりついて引き寄せる。
 せめて快楽くらいは、父が奪うでなく、自分が求めるでなく、等しく分け合いたかった。
「あっ、ああ、あ…はあ、はあっ」
 父の動きに合わせて、関平は誇張気味に声を上げた。自分が感じていることを、よく父に伝えたかった。
 背から肩を抱いて更に体を寄せると、それに応えて関羽も関平の体に腕を回した。
「ふっ、うっ、ん…、あ、あっ、父上っ!」
 しばらく互いに体を揺すっていると、体の芯からわき上がってくる新しい快楽がある。
──ああ、これがそうなのだ。
 関平は直感した。
 この前抱かれた時はほとんど心の喜びで、体には苦痛だった。
 しかしこれは違う。体が訴える快感だ。純粋に真っ白な、逆らいがたい快楽だった。
「父上、もう、もういきます」
 耳に吐息を送り込むようにしてささやくと、了解の返事に首筋を甘かみされた。
 父も息を乱しているのがその拍子に感じられて、それが引き金になった。
「う、あああ…っ!」
 初めて知る極限の喜びに関平は耐えた。

 夢の中にいるような、酒にほどよく酔っているような余韻に関平はぼんやりしていた。
 父が体を抱いて静かなのでもう済んだかと思っていると、突き倒されて足を開かれる。
「まだだ」
 まだ十分に猛々しい父のそれが再度押し込まれる。
「あ。く…!」
 そしてあるだけの快楽をすべてしぼり取るまで続いた。
 父のやり口は相変わらず荒っぽかったが、今更のように優しくされるよりはましだった。

 衣服を正し剣をつかんで陣幕の入り口の幕を払ったところで左右に番に立つ者にはたと気付く。
 この者たちは自分たちがなにをしていたかすっかり聞いていたろう。彼らが自分を見る目にはっきりと軽蔑を見た。
──だが、もうなにもかも、どうだって構わぬ。
 どうせならば徹底的にさげすまれた方が気が楽だ。
「父上はお休みになられる。邪魔をせぬようにな。私も疲れた。今夜はもう休むと諸将に伝えよ」
「はっ」
 開き直った言葉をどう受けたかは見せなかったが、一方の兵が即座に伝令に立ち去った。残った兵ももう表情を戻している。
──考えてみれば、私が父上と道を踏み外そうと今のこの者たちには些細なことかも知れぬ。
 夏口に戻って関羽の処遇が決定すれば、部下もある程度以上の身分ものは──関平を含めて──処罰を受けるだろうし、直接罰を受けない下層の者たちは身の振り方を考えなければならない。
 やけになりたいのは自分だけではないのだ。
 改めて父のしでかしたことの重大さが浮かび上がってくる。
──そして、その父の一大事に私は自分の心にかまけていさめもしなかった。
「私は…なにをしているのだ」
 父の役に立ちたいと繰り返し言うだけは言いながら、一体なにをしていた。こんなにそばにいながら。
──父上の義侠心を考えれば、恩を受けた曹操を切れぬのは分かりきったことではないか。
 そしてふと思い出す。
 軍師は強いて自分を連れて行くよう父に命じたとのだと聞いた。それはまさしく、父を諌めるその役割ためだったのではないのか。
 関平は愕然とした。
「ああ、私は自分にかまけてなんということを」
 自分に都合のいい言い訳ばかりをして、なにをしていた。
 盾になるなどと口では言いながら、応えない父を不誠実だと思い、応えれば応えたで一方的だと。
 報われる未来はないと思いながら、父がそれを曲げて振り向くことを期待した。
「取り返しがつかぬ…」
 そして、一度限りで忘れると父と床を共にしながらまた繰り返した。

──なぜ私はあの人を父と呼んだりした。
 陣幕の間を歩きながら関平は悔やんだ。
──そして、ひとたり父と呼んだならば、なぜ愛したりなどした。
 関平は悔やみ、そしてその後悔がなおさら彼を苦しめた。
 なぜ自分の心を悔やんだりしなければならない。
 苦しみに耐えかねてきつく目を閉じると、目元に薄く浮かんでいた涙が玉を結んでまっすぐ頬に流れ落ちた。
 父が唇をつけた頬に。
 まだ熱いその頬を冷やすにはそのしずくは小さすぎた。


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