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秋の夜長。
気候は肌さわやかにすがすがしく、食べ物は総じて美味であり、家族団らんにはうってつけの季節だ。
仕事に時間を尽くすのも父と二人きりで過ごすのもいいが、なんといっても家族で過ごせるのは心が安らかになる。
気の置けない人々と囲む、でき立てのあたたかい食事。私は幸せ者だと思うかたわら、天下の平和のために働く者の端くれとして自分ばかりこんなに幸福でいいのだろうかとふいに考えてしまうと、秋風が懐に吹き込んだようにさっと胸が冷えた。
人の心とはなかなか複雑なもので、大部分の幸福と少量の不幸によって安定するようにできている。その晩出し抜けに関平は、自分があまり幸せなために不安になってきた。
こうして関平が没論理的に落ち込んでいる今夜、父の帰宅も早く一家そろっての夕食は最上なのだが、献立には折り悪く豆腐の煮つけがあった。
なんの変哲もない常菜だが、この家では豆腐は特別な食材だ。
──豆腐。豆腐か。
関平は豆腐は好きだが、というより好き嫌いなくなんでも喜んで食べる方だが、父の豆腐嫌いは有名だ。見ればやはり父には違う料理を用意したようだ。
厳格な父の下、子供たちが好き嫌いをすることなど決して許されないこの家で、父自身もほとんど食べ物の好みなど言い出さないが、豆腐だけは絶対に口にしない。
なんでも、実家が豆腐屋の関羽は若いころ豆腐の行商に大層苦労し、それでいまだにだめなのだそうだ。
父の数少ない弱点は弟たちにはいいねたのようだが、関平はとてもそんな気分にはなれない。とりわけ、珍しく繊細になっている今は。
──言葉で言い尽くせないような苦労をなさったに違いないのだ。
父は確かに自尊心も強く傲然たる部分もあるが、それを補って余りある実績がある。それだけの能力があり努力もしている。それでいて弱音など人に言って聞かせたことはない。
そんな風に、日ごろどんな苦労も苦労と思わない父が、何十年たっても思い出したくもないような苦労はどんなに辛いものだったろうと思うと、関平は胸が詰まって食が進まない。
──父上。おいたわしい。
結局、ろくに食事に口をつけずに箸を置いてしまった。
「おや平、もういいのですか」
「いえ、私は。もう結構です。申し訳ありません母上」
関平は自室に戻って書など読んでいたが、心が晴れ晴れとしないので早々に床につくことにした。
目を閉じてももやもやとして眠れない。
──私は、苦労知らずだな。
天井を見つめてため息をつく。
実家は裕福だったし、次男坊だったので甘やかされて育った。その分、身の振り方を考えねばならないはずが、折りよく父が現われて自分を養子にと望んだ。
今では望むべくもない地位にいて、新しい家族もある。
──私だけこんなに恵まれていてよいのか。
父が若いころ働きながら学問をした苦労、伯父たちと転戦を重ねて身一つから国を持つまでに至った苦労。自分が知っている部分などほんの一部だ。
父は自分になどなにもこぼしはしないが。
──そして、今はどうなのだ。
荊州というこの広く重い土地を、父の肩が支えている。自分がこうしてそばについていてどれほどの助けになっているだろう。
──父上、私は。
それを思うと関平は胸が痛くなる。
「平、眠ったのか」
父が呼ばわる声がする。
関平は慌てて起き出すと明かりをともし、寝乱れた髪と服を調えて父を招き入れた。
「どうぞ父上。このような格好で申し訳ございませぬ」
「具合が悪いわけではないのだろう」
「いえ、そうではございませぬが」
関平は口ごもる。
「いつもは人一倍食うお前が、どうした」
「人を大食らいのように言わないで下され」
憤って言い返すがそれも一時のことで、またうなだれてしまう。
関羽は容易に息子の心情を読んでいた。
「お前が思いやりに長けているのは分かるが、長所とは言えぬぞ」
「思いやりなどというものではございませぬが、こういう性分なのです」
抱き寄せられるままに、関平は父の胸に体を預けた。
父の心が今は切ない。
「…。私は、父上のお役に立っておりますか」
無論役に立っているとそう言ってやるのは簡単だが、そこで関羽はいささか躊躇した。
彼はふさいでいる者の扱いが得意でない。
なにしろ自分自身、落ち込むということがほとんどない人間だからだ。だから気づかいができない。
その上この息子は鬱憤を発散するたちではなく自分自身の中にしまいこむ性質で彼とは正反対であったため、どうしたものか応対がやっかいだった。
優しくしてやるべきなのだろうか。叱咤激励するべきか。
息子の性質を鑑みて関羽は腕に力を込めた。
「お前は父の片腕であるし、もちろん大事な息子でもある」
滅多に人をほめない父がそう言うのを聞くと、強いて言わせたようで関平の心はなおさら沈んだ。元より、言葉が欲しかったわけではないのだ。
──努力しよう。父上のためにもっと。きっとそうしよう。
「ん」
関羽が唇を合わせてくる。いたわるように優しく。普段そんなにした試しはないくせに。
父が不慣れにも自分を気づかってくれているのだ。うれしいのか辛いのか、よく分からない。
「寝台へ参りませんか父上」
今はとにかく、父を近くに感じ取りたい。
関平が横になると、関羽はそのもとどりの紐を引いた。慌てて結った髪は簡単に解けた。
「今は手っ取り早く父の役に立ってもらおうか。父のために乱れて見せよ」
「はい」
ついばむような断続的な口づけを受けながら、関平は先を急いで父の衣服を乱した。
最後のひとえを落としてしまうと、燭台の揺れる明かりに父の鍛えられた体が凹凸が強調されて浮かび上がる。
この体に今から抱かれるのだと思うと、のどが干上がるような渇望を覚える。
促されるまでもなく、父の股間に顔を伏せた。
ただ立ち上がっていたものが、次第に大きさと硬さを増す。口に含み切れないほどになる。
関羽は声に出して反応を見せたりはしないが、その息使いに、自分の奉仕が父を喜ばせていると分かる。
「もうよい、放せ」
平素とは違う声。父が自分を欲しがっている。自分もだ。
「いいえ。飲ませて下さい、父上」
夢中でねぶり続ける。
「く」
父が髪を一瞬きつく掴んだので、関平は身構えてうまく飲み下した。
指に残る青臭い残滓を、父に見せつつなめ取る。
かつて見たことのない媚態に、関羽も男性を熱くする。
関平は普段から体の反応も悪くはないのだが、色気があるかと言われればどうかというところだ。
しかし今夜は実に色めいて見せる。
「父の言いつけに従うか。本当に、素直なことだな、お前は」
乱れて額や頬に掛かった髪をすき上げて、その心意気に応えてやろうとかみつくように口づける。
「う…っ、く」
体を互いにすり合わせて性感を高めながら、深く唇を、舌を絡める。
唾液が口角から、輪郭を伝ってのど元に流れた。
「ん、ん」
体が燃え立つ。父が欲しい。
関平は離しがたく、父の首に腕を回してかなり長らくとどめたが、いつまでもそうしてはいられない。
口づけの手も抜かずに関羽が関平の帯をすっかり解いたので、肩を抜けばもう身にまとうものはない。
冷たい夜の空気に肌がさらされ、その温度差に今夜の自分が奇妙なほどに熱くなっているのを知ると、突如関平は恥ずかしくなった。
「父上、明かりを、明かりを落として下され」
「今更父になにを隠すことがある」
それはそうだが、しかし際限なく乱れて父にすがってしまいそうだ。
「いい顔を見せてみろ。父の言うことを聞くのだろう」
そう言われては逆らえようもない。羞恥に眉をしかめつつも、体の力を従順に抜いた。
「お前はよい息子だ。いろいろな意味でな。そうだな?」
足を開かせて、指で慣らす。わざと冗長に。なかなか内部には与えてやらずに入り口をなで回した。
「父の言うことを聞いて、父の役に立つな?」
「うう」
歯を食いしばりながら関平はうなずいた。
刺激への飢えをこらえる表情は見甲斐がある。
「耳でも父を楽しませよ」
「あ…っ。く、下さい、父上。もう、辛抱なりませぬ」
「よし」
中指を、ひと関節ずつゆっくりと、しかし一番奥まで差し入れた。
「う…! あ、あ…」
二本三本と指を増やししまいには親指を除く四指を収めてしまっても、渇望はいやされない。それはかさの問題ではない。
「く、うう…。ち、父上を、父上を下さいませ。どうか」
自ら言い出すまで許してやるつもりはなかった関羽はその一言で満足した。
「それでよい。お前は父の望む通りの息子だ。思い悩むことなどなにもありはせん」
そして力の入らない息子の体を引き起こすと、あぐらをかいた上に腰を下ろさせた。
「ん──!」
せっかく明るい中で抱くのだからと顔を見やすい体勢を取ったのだが、自分を身の内に受け入れて、息子はいつもより綾めいて見えた。
舌をからませながら互いに体をゆする。
「うっ、うっ」
一番敏感なところに父のものが触れるたびに関平は背をそらし、父のそれを締め上げた。
あらわな首筋に関羽は唇をつける。
「い…い…」
「お前も、いいぞ」
関羽はゆるく突き上げながら体をなで、肩から肘、胸から腹、背へと手の平を滑らすが、関平はその手をつかんで首を振った。
「もっと、激しい方がいいのか」
恥じ入りながら、しかし、父の目が言えとそう光るのに逆らえない。
「は、はい」
「ふん、そうか」
関羽は口角に人の悪い笑いを浮かべて、息子の腰をむずとつかんだ。
「あっ、はっ、ああっ!」
強く揺すり上げられ、頭の中が真っ白になる。体の芯から全身に官能が広がってもう行き着くことしか考えられない。
「う…ん」
自分の吐息が熱い。
「あっ。い、く…。もう」
内股に、体内に、父が熱い。
「あっ、あっ、ち…ちうえ…。く…」
どくどくと音が聞こえそうな激しい放出に体の中が濡らされるのを関平は感じた。
満ち足りているとそう思った。
翌朝、関平はけろっとしていつもの調子に戻っていた。
彼は心身が頑丈にできており、ただでも一晩眠れば立ち直ったろうが、そこに父のお情けをいただけば百人力だ。
しかし、ここで話が終わってしまっては片手落ちというものだ。禍福はあざなえる。
彼は単純でも、世の中のすべての人がそうではない。かなり混み入った性格の人間がすぐそばに、しかも隣の部屋に寝起きしている。
「おはよう。早いな興。どうしたお前、目が赤くはないか?」
「…。おはようございます。ご機嫌が直ったようでなによりです」
関興はむっつりしている。落ち込んでいた兄がすっかり元通りになったのは嬉しいが、その理由を知っていては喜べない。
関平が昨晩食卓を離れ、父も食事を切り上げて去った後、一悶着あったのだった。
「うん、兄上も豆腐がお嫌いだったろうか?」
おかしいな、と首をひねる関興。彼は学に優れ武に長じ、欠点らしい欠点のない少年だったが、人の心の機微にはあまり天賦があるとは言えなかった。それも父の血のことで彼の責任ではない。
「あらあら。長兄も気苦労が耐えませんわね、このような弟があったのでは」
「な、なに! なにが言いたいんだ」
妹に食って掛かる関興。一方関索は危うきに近寄らずとばかりよそを向いて母と会話を始めた。
「長兄は心がお優しいから、お豆腐に父上の苦労を忍ばれて食欲をなくされたのです」
姫が次兄をたしなめてぴしっと言った。
「そんなこともお分かりでないとは、やれやれですわ」
この家で一番怖いのは当然父だが、彼女も劣らない。年少で女であるという武器を十分に自覚しているのが彼女の恐ろしいところだ。
「二兄も、いつも兄上にお世話になっているのですから、たまには恩返しなさったらいかが」
妹に指摘されたのは業腹だが内容は一理あったので、兄を元気づけようとその部屋を訪ねた関興だったが、気の毒なことに、彼がやってきた時兄は父と取り込み中だった。
当然即座に自室に引き返したが、隣の兄の部屋から色めいた声が延々聞こえる。いや、聞こえるような気がする。
布団をかぶっても一睡もできずに朝を向かえ、そして今、父がねんごろに慰めたためだろう元気を取り戻した兄を見て、心から喜べようか。
「なにかあったのか」
「いいえ、なんでもありませんから!」
その寝不足のすわった目からしてどう見てもなんともないはずはないのだが、頑として口を開かないので関平はおろおろするばかりだ。
そしてこの日以来関興も豆腐拒否症にかかってしまい、そうとなれば関平も豆腐を見てあまりいい気分はしなくなり、豆腐が関家の食卓にのぼることはまもなくなくなった。
自分は苦労が足りないと嘆く関平だが、手のかかる父と弟にはさまれてはそんなこともなかろうと人は見るだろう。
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