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昔々あるところに浦島雲長なる大男がおりました。
赤ら顔に漆黒の長い髭を蓄え、大層腕っ節の立つ長刀の使い手です。
ある日雲長が浜で赤兎馬の速駆けをしていたところ、ガラの悪そうな(ついでに頭も悪そうな)連中が一匹の亀を取り囲みリンチしているではありませんか。
曲がったことが大嫌いな雲長は義侠の血が騒ぎ、青龍偃月刀でもってチンピラ共をやっつけました。
「助けて頂きありがとうございます。お侍様は高名な将軍様とお見受けします。是非私の家でおもてなしさせて下さい」
実は雲長は義兄・義弟を探す旅の途中でしたが亀があまりに嬉しそうにいそいそと道案内を始めるので、請われるままに亀について行くことにしました。
さて、亀が案内した先はお決まり龍宮城だったわけですが、なんとも貧乏臭い城でありました。
聞けば魏国・呉国と天下三分の大戦の真っ最中だとか。
龍宮城の姫(これがまた胡散臭い人物でした。袖の中に袖箭を仕込み、始終羽扇をヒラヒラしているんです)に半ば強引に前線に担ぎ出された雲長はとにかく目の回るような戦の日々を過ごしました。
気付けば桃園で契りを交わした兄弟たちと離れ離れで幾月が経ったでしょうか。
(その間ずっと亀は雲長に付き従い身の回りの細々とした世話をしておりました。それも本当に嬉しそうに、自主的に、です)
ついに雲長は龍宮城の姫に暇を願い出ました。
姫は「しかたないですね、手駒を一つ失うのは本位ではありませんが」と渋々ながらも了承しました。
そしてこれまでの雲長の働きを讃えつづらを一つ褒美として与えると、来た時と同じように亀に案内をさせましょう、と言いました。
ようやく始めに亀を助けた砂浜へ戻り着くと、雲長は姫にもらったつづらを開けてみることにしました。
当然開けてはなりませんよと言われておりましたが、雲長はあの胡散臭い姫の言う通りにするなど気に食わないあまのじゃくさんだったのです。
亀も雲長のつづらを開ける様子を固唾を呑んで見守っておりました。
「…よいか、開けるぞ」
「はい」
えいやっ、とつづらを開けると途端にもくもくと白い煙が立ち込め、辺りは何にも見えません。
ごほごほ二人は咳込みました。
「…ん?ごほごほ?二人??」
不思議に思った雲長が目を凝らすと、どうしたことでしょう。
そこに亀はおらず、代わりに見たことのない青年が一人むせ返っているではありませんか。
「…お前…」
青年はそこそこ見目もよくすんなり伸びた手足は具足を見繕ってやればなかなかのよい武将になりそうでした。
…ただし今は素っ裸でしたが。
「ゲホゲホ…う、雲長様、今の煙は…」
あらためて尋ねるまでもなく、それは龍宮の国にいた間何処へ行くにも雲長に付き従い身の回りの世話をしてくれていた亀でした。
「お前、人間だったのか」
「は?何のことでしょうか。私は亀で…ええっ?!」
おのれの姿にようやく気付きあわてふためく亀。
しかしこの姿では再び海の底の龍宮城に戻ることはかないません。
しばらくうろたえたのち、腹を括った亀は雲長に申し出ました。
「どうか私をお連れ下さい。雲長様の手となり足となり働きます故」
亀であった頃から彼の細やかな気遣いの数々を大層気に入っていた雲長はもちろん了承しました。
しかも亀を平と名付け、これからは自分を父と呼ぶように申し付けたのです。
そして目に毒とばかりに自分の衣を一枚脱いで息子となった彼に着せかけてやると、二人で赤兎に跨がり歩きだしたのでした。
…先程見た若々しい肉体が頭から離れない雲長は、いつまで‘父と息子’でいられるかわからない、と思いながら。
余談ですが、孔明は始めからもちろん雲長への褒美として亀を与えてやるつもりでありました。
健気な亀もそれを望んでいたということは実のところ誰の目にも明らかだったのでした。
おしまい
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