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「これはどうも、失敗したな」
渋い顔を見せる父をよそに、関平はぬかづいて天に感謝したい気分だった。
二人で遠乗りに出て日暮れを逃してしまったのだ。日が長いころだといって油断した。
地形もこのあたりは明るくないことだし、野宿した方がいいだろう、そう言って説得すると父はあまり気乗りしない様子ながら承諾したので、関平は父の気が変わらないうちにあわただしく野営支度をし、野鳥を射てきて食事を済ませた。
──二人きり。
まだ硬いヤマモモを食後にかじりながら、関平はこの言葉に胸を躍らせた。今夜を逃して折りはない。焚き火を世話する振りをして出方をうかがった。
「日が落ちると、山では意外とまだ冷え込むものだな」
その一言に関平は目を輝かせる。
「では、せ、拙者が! 暖めて差し上げます!」
勢い込んでそう言ったが、父は冷淡に息子を観察すると、そっけなく言った。
「やめておけ」
断られたこと自体にも期待が裏切られたが、やめておけとはどういう言い草だ。自分では用が足りないとでも言いたげだ。
仮にも恋仲にあるはずの自分に対して、あんまりではないか。
関羽は外套を脱いで土に敷き、お前はここで寝るようにと言うと、自分は焚き火をはさんだ向かいの樹木に背を預け、偃月刀を抱いて立番の構えだ。
「火は父が見ておる。安心して休め」
「そんなことは、どうでもいいではございませぬか」
すげなくされて逆上した関平は父に寄って取りついた。
「拙者はそんなに魅力がないのですか父上!」
「なに?」
「父上は拙者を、その、よ、夜の相手と思っては下さらぬのですか。ほんのわずかでも拙者を憎からず思って下さるのであらば、こうして二人きりで、寒い晩に、そばに寄せてお休みになりたいとお考えにならぬのですか」
すがりついてきた息子を関羽はまじまじと見て、しかしその真意をはかりかねた。
「酒も飲んでおらんのに酔っ払ったか」
「父上!!」
関平が悲痛というよりは情けない声で叫ぶので、関羽はちょいと脅して正気に返してやろうと逆手を取って背後の幹に押さえつけた。
にらみ下ろすが、関平は迫られるその体勢に感動してしまい、ほとんどうっとりして父を見上げた。
「父上…」
首にすがってくる息子を関羽はあきれ顔で見た。
「お前は、父をなんだと思っておる」
「? どういう意味です」
「聖人君子だとでも思うのか」
「違うのですか」
まさにその通りではないか。一応は恋人である自分に滅多に手も出さない。他になんだというのか。
「お前はまるで父の心を知らんのだ」
関羽はなかば憎々しげに息子を見た。
「お前がまだ年端も行かず、お前に対して父という立場もあると思えばこそこらえているのが分からんというのか」
「まさか」
関平は肩をすくめた。
父が自分に対してそのような自制を要するとは到底考え及ばない話だ。だから「まさか」というのは自然に出た感想だったが、その一言はかなりのところ、関羽の癇に障ったようだ。
「お前という奴は。素直といえば取り得だが、ただ考えが浅いだけなのか。お前がここの所沈んでおるから、性急過ぎたかと控えもしたというのにこのような態度を取りおって、もう手加減はせんぞ。あおっておいて途中でやめて欲しいと頼んでも聞かぬぞ」
「ああ、もちろんです父上」
言い終わらないうちに口をふさがれる。舌の根がしびれるほど強く吸われて、しかしその間に父の両手が胸と下腹部に別々に忍び込んでくるので口づけだけに集中して酔っていもいられない。
「あ…」
胸の突起をつままれ手の平ですられて、思わず声を上げる。
陶然とするその顔を父はふっと笑った。
「こうされるのは嫌いでないようだな」
「…。はい」
正直に答えるが、息が震えている。
「言えばお前のいいようにしてやる。お前が上達すれば父もいい目が見られるというものだ。早く上手くなれ」
「はい、父上」
そう首肯はするものの、内心大変驚いた。
なんと人は見た目では分からないものだ。父がこんなことを言う人とは思わなかった。
──しかし、嫌ではない。
胸をさすりながら、しつこいほど口づけが深くなる。父の舌を吸って朦朧としているうちに、いつのまにか半ば堅くなった父の腰のものが自分の同じあたりに押しつけられていた。
意図を持ってこすり合わされて、関平は限界を覚えて父を引きはがそうとする。
「父上。こ、これ以上は。ああ…っ。もう、拙者、」
「待ったは聞かぬ約束だろうが」
「で、ですが、父上の着物を汚してしまいます」
「ふん、なかなかかわいいことを言う。そういうのも悪くはない。では、握ってやるから手の中に出せ」
「は、はい」
父の堅く大きな手で強くしごかれて、声をこらえるのも忘れて関平は惑溺した。
「うっ、うっ、父上! あっ、ああ!」
あごの線に口をつけながら、快楽にふけるその顔を間近に見て、まことこいつは素直なことよと関羽は楽しんだ。
「ん…、あっ、もう、」
「構わんぞ」
間もなく関平は父の手をぬらしてしまったが、するとその手がそのまま後ろに回され、ぬめった指が中に入り込んできた。
「あ…」
ざわざわする感触が背筋を上る。もう体が待ちかねていたので、痛いとは思わなかった。そして父の指が的確にある一点を押さえる。
「うっ、くっ!」
関平が仰け反って首筋をあらわにすると、すかさず関羽はそこに顔を寄せる。そしてなめる。
「あっ、はっ。はあ、はあ…」
指の腹で念入りにそこをさするので、関平はたまらない。
「そんなに、なさらないで下さい。あっ…。もう、もう十分です」
息子の体から力がすっかりぬけ、その内側も十分に熱く柔らかくなったのを見て関羽は指を引き抜くと、体を返させ木の幹にすがらせた。
「もう少し、腰を引け。支えていてやるから力は抜くのだ。よいな?」
もはやすっかりいいなりで、ただうなずく息子を悪くない風情に見て、前をゆるく握ってやりながら一息に関羽は押し入った。
「あ、ああ──ッ!」
樹皮に爪を立てて関平は苦痛の波をやりすごし、しばし体をこわばらせていたが、しかしじきにその息づかいが詰めるものから甘く吐くものに変わったのを見て関羽はゆるく動き始める。
「ん」
関平の内側は始めその動きに抵抗したが、吸いつくように迎え入れ、去るのを惜しむようになった。
そしてその動きが緩やか過ぎることを物足りなく思うようになった。
「ん…、ん…」
しばし指をかんで関平は切なさをこらえたが、ついに背後の父にせがんだ。
「ち…ちうえ」
「うん?」
その間も父は腰を使っている。息を整えて関平は続けた。
「も…もっと、もっと大きく動いて下さい」
「ふん、足りんのか」
笑いを含んで言うのに、羞恥をこらえて答えた。
「足りませぬ。父上…、か、加減なさるのは、どうか、おやめ下され」
「よし、聞いてやろう」
その言葉を待っていたらしく、関羽はすぐさま動きを激しくした。
──意地の悪い父め!
関平は心の中で悪態をついたが、今まで盲目気味にあこがれて見上げるばかりだった父を非難して思うなどこれが初めてではなかろうか。
「んッ、あ、ああ」
「なかなか、悪くない」
関羽が遠慮会釈なく揺すり上げるので、つながった場所がぬれた音を立て、関平も正気なら聞くに耐えなかったろうが、今は父の声しか聞こえない。
「もう! うっ、いく、ああ、ああっ!」
関平は体を引きつらせ、父のものを締め上げた。
絶頂に耐えている間に父が中で終わったのも分かったが、その間も意地悪いはずの父の手はきちんと自分の腰を支えていてくれることに関平は幸福を感じてしまうのだった。
目を開けると間近に父がいた。腕を貸してもらって少し眠っていたようだ。
「お前にはやはり刺激が強すぎたろう」
「いいえ父上。拙者、嬉しゅうございました」
自分が乱した父の合わせを整えながら、そこに頬を寄せた。これで欠けたるところのない恋仲になれたとそう思った。
「そうか、ならばよいがな。この程度で父が満足したなどとと思ってもらっては困るぞ」
そういいつつ既に父の手は腰辺りをまさぐっている。
「はい。心得てございます」
了解の印に、父の衿を引いて唇を合わせた。
「関平、今日も寝不足か!」
「毎日毎日、他におっしゃることはないのですか、張飛殿」
いつも通りの朝の挨拶に関平がすわった目でにらんでくるので、おや反応が変わったなと思いつつ張飛はそれ以上ちょっかいを出すのを控えて立ち去った。
また誰かにお節介口をはさまれては面倒だとは思いつつも、関平は自室に下がるのが面倒でそのまま考え込んだ。立ったり座ったりするのがこたえるのだ。
あれ以来、自制をといた父のために関平は本当に寝不足になり、くたくたに疲れている。
関平も体力には自信があるが、父には恐れ入った。
どうやら父の辞書には「ほどほど」とか「適度」という言葉はないようだ。極端なのだ。
しかし、寝不足の朝はとても辛いが、夜になればまた喜んで父の部屋に出向いてしまう。
──それにしても、高潔な父上のこと、肉体的欲望など頓着しないのかと誤解しかけていたが、かように好き者だったとは、人は見かけによらないものだ。いや、拙者も人のことは言えないのだが。
「関平」
「ああ! おはようございます父上!」
聞き慣れた声に関平は条件反射で立ち上がった。
「今朝も元気がいいようだな。なによりだ」
関羽はかがむと息子の耳元に寄って声をひそめる。
「今夜も時間は取れるか」
「はっ、はいっ! うかがいます」
片や関平の辞書には「学習」という文字はない。
相変わらず父の背に見惚れて見送る彼は周囲の視線を気に病むこともなく、本人は悩みが絶えないようでも、はたから見れば今日も幸せの真っただ中だった。
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