|
長い雨。鎧の表面を雨粒が叩く。
地の利に通じた父がこの機に選んだ策は水攻めであり、その要となる水門の警備を関平は任された。
意気に感じて奮い立つ彼は隙なく兵を整えて父に報じる。
父の戦装束は目がくらむほどに力強かった。
胸がわく。父とまた戦場に立てるのだ。
「父上」
興奮を押し殺して、戦とは離れたことをわざと口にする。
「この戦が終わったら、拙者に碁を教えてください」
息子の落ち着きを喜んだか、向き直って父はおもむろに笑った。
「…うむ、息子と打つ碁、さぞ面白かろうな」
この人はなんとまぶしいのか。
腕を引かれるのに誘われて、珍しいことをと思いながら、素直に目を閉じる。
重なってくる感触に、その約束が永遠に果たされず終わるとは知るよしもないまま、関平の方からも父の唇をついばんだ。
戦の後の話などしない。それが武人の掟のはずだ。
なぜ自分はあの時に限ってあのようなことを言ったのだろう。
なにか約束が欲しかったのか。久々の戦にはやる心の隅になにかしらの不安があったのか。
戦場であんなことをした父の心にも同じ闇があったのだろうか。
任務を放棄してでも父の護衛につけばよかったのか。
あの武神のような父に自分などが? ああしかし、せめて一緒に死ぬことができれば。
考えてももうどうにもならないことを、自分はこれからずっと自問自答して生きて行くのだ。
そしてもう一つ、あの戦で心に決めたことがある。
碁など、一生誰にも教わるまい。
|
|