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 深夜に及ぶ長い評定が終わり、今関羽のそばに侍すのは関平だけだった。
 諸葛瑾を居丈高に追い返したまでよかったが、さりとて策があるわけでもない。
 案は二つに分かれた。飢えるとも最後まで城にこもるべきである、意を固めて打って出るべきである。
 道筋こそ違え、行きつく先は死と知れた選択だった。
 廖化が出て行ってからの日数を考えれば上庸の兵が動かなかったことはもはや疑う余地はなく、くもの糸ほど細かったよすがは今や完全に断ち切れていた。
 しかし関羽の内心は既に決まっていた。
 腹心の部下にさえ、その胸の内は明かしていなかったが。

 生涯たった一度の不覚が命取りとなった関羽は、誓いを破ることを兄と弟にひたすら詫びなければならなかった。そして自分を慕って付いて来た部下たちにも。
「父上、あまり思い悩まれますと、傷にさわります」
 いつも控えめで忠実だった息子にも。
「お前にも、済まぬことをした」
「なにをおおせられます」
 思考に行き詰った関羽はふっと息をつき、姿勢を崩した。
「しかし、お前が軍師の兄を切ろうとしたのには驚いた。かつてはお前が父をいさめたのではなかったか」
「父上を侮辱する者は誰であろうと生かしてはおけませぬ。お止めになったは惜しいことを致しました」
「お前はあのような思い切ったまねをするたちであったか」
「さあ、どうでしたか」
 関平は空とぼけて言った。
 もちろん平素の行動ではない。城内の兵は上も下も行き詰っている。
 しかし日中までは思い詰めた顔をしていたこの息子が、今では父をいたわるように、穏やかに笑みを絶やさない。
──来るべき時が、来たのだな。
 関羽に最期を悟らせるのに、それは十分だった。
 そして日頃言えない言葉が自然に口をついて出てくる。
「お前には厳しく当たり過ぎたかも知れぬ」
「そのようなお言葉は父上らしくございませぬ」
「人をしてお前を侮らせたくなかった。思い返してみれば、お前に一片の平穏を与えてやることも父はしなかった」
 日々刀を右手に手綱を左手に。幸せを追う手を残さなかった。
「父上と共にあることが、平の幸福にございますれば」
 関平はにこと笑った。
「悔いはないのか」
「あるはずもございませぬ」
 迷わず答えて、思いついて一拍おいて続けた。
「──ただ、そう尋ねていただけるのであれば、思い残すことは二つばかりございます。この世の名残に私の願いを聞いてはいただけませぬか」
「なんだ。父に叶えられることであれば申してみよ」
 関平が個人的な願いを口にすることなど絶えてなく、関羽はむしろ喜んで聞き入れた。
「願わくば、一晩のお情けを賜りとう存じます」
 言葉にそぐわない静かな口調に、関羽は耳を疑った。
「なんと言った」
「抱いて下され、父上」
 関平は淡々と繰り返した。いざとなると腹が据わるという、息子の知らなかった一面を関羽は見ることになった。
「私の気持ちをご存知でないとは、言わせませぬ」
 関羽としても関平を愛でる気持ちはあった。しかし心を伏せたままにしておくのは二人の間の口には出さない取り決めだった。
「このままお別れいたしますれば、心残りで化けて出るかも知れませぬよ」
 笑ってそんな風に言える心境になるまでに、彼の心にはどれだけの葛藤があっただろうか。
──出会ったころはまだほんの青年の入り口だった。身も心もたくましくなったものだ。
 関羽は愛しさを募らせて立ち上がり、口付けようと関平の両肩を捕まえた。
 途端、関平の体がぎくっと波打った。
 見れば狼狽に顔色をなくしている。
──先ほどの強気は、はったりか。
 関羽は苦笑した。
「父の使っている部屋で待っているがいい。後で参る」


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