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 関平は父に体をからめ、甘えるようにその首筋をついばんでいた。
 荒い息の合間の満たされ切った吐息が交歓の喜びを雄弁に語っている。
──体がとけてしまうかと思った。このような幸福があったとは。
 ところがそっけなく父は体を離した。今しばらくと引き止めようとして、自分には元々そんな権利はないのだと、すがろうとした手を収めた。

 関羽は身支度をし剣を帯びると、背を向けたまま言った。
「お前は明日の朝、残兵を率いてこの城を出るがよい」
 今晩の内に自剄し、将兵は呉に下らせる。それが関羽の結論だった。
 部下を裏切るのは心苦しくとも、端下の者の手に掛かって死ぬなどということは高い矜持が許さなかった。
 そして自分に最後まで付き従った義を知る部下だからこそ、あたら死を選ばせたくはなかった。
「私が、とは? 父上は?」
「お前は真実父の子ではない。父に殉ずるいわれはないし、呉賊としても命までを取りはすまい」
「よもや…。情けのうございます父上!」
 関平はかつて父に向けたことのない強い口調で関羽をなじった。
「父上に従って二十年このかた、平は父上を父と拝まぬ日はございませぬ。それをまことの子ではないとは、なんというおっしゃりようか」
 関平の怒りは彼の太刀筋に似てなんのごまかしもなく、人を傷付けるのには向いていなかった。
「そのような言葉、二度と聞きたくはございませぬ!」
「済まぬ──。心にもないことを言った」
 関羽が素直に詫びると、いつもの様子に戻って関平は飾り気なく笑った。
「いえ。私も口が過ぎました」
「このような話を聞いて喜ぶ者はここには一人もおらぬだろうな」
「そうでございますとも。そんなことより父上、息子のもう一つの望みを叶えて下さいませ」
 笑み続けながら言うのに、たわいもない甘えごとを言うつもりと見て取って関羽は鷹揚に許した。
「申せ」
 関平は袖を通していただけのひとえの衿を正し、帯を端然と結ぶと静かにひざまずき、首をうなだれた。
「父上の手に掛かって死にとうございます」
「なんだと」
 関羽は今度こそ言葉を失い、立ち尽くした。
「先立つことがなににも勝る不孝とは存じておりますが」
「それを知りながらか」
「はい。血の一筋まで平は父上のものにございます。なにとぞ」
 柄を握る手に汗がにじむのを、関羽は初めて感じた。
 長く親しんだ愛刀が最後に吸うのが、我と我が子の血になろうとは。しかもこの手に抱いた熱さえまだ冷めないというのに。
「平は幸せ者でございました。今も、今までも」

 時は建安二十四年、麦城。月は円を描き、十二月に似合わぬうららかな冬の夜だった。


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