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 打ち捨てられた城の、うらぶれた部屋。
 粗末な寝台に腰掛けて関平は崩れ掛けた壁をなんともなしに眺めていた。
「心の備えはできたか」
「は、はい」
 やって来た父の見慣れた顔がこんな時には別人のようで、関平はたまらず顔を伏せた。
 それを妨げて関羽は下顎に手を掛ける。
 顔を寄せれば、唇が触れる瞬間関平の体がひどくこわばった。

「ん──」
 勝手が分からず息をとめていた関平が窒息するかと思っていると、ふいに肩を押された。横になるよう促されたことをようよう理解する。
 おおいかぶさって来る父をどうしたものなのかと頭の一部では考え、残りの大半は途方に暮れていた。
 しかし寝台を背にすると、いよいよ逃げ場をふさがれたという気分に身の毛がよだつほどの被支配欲に襲われる。
──ああ、これで私は父上のものになるのだ。
 父の背を抱こうとして、己の手がぶるぶる震えていることに関平は気付いた。
 心は気丈を振る舞っても、体は嘘をついてくれなかった。

 震えの止まらない関平を父は揶揄する。
「死が怖いのか」
 そうではないと分かっていて聞く。
「いえ」
「では、父が怖いか」
「いいえ父上。いいえ!」
「ならば、なぜ震える」
「父上が抱き締めて下されば、止まりまする」
 関羽は関平の体に腕を回すと帯を解いた。
 関平は目を堅くつぶり歯を噛みしめて"なにごとか耐えざらん"という風情でいる。
「初めてか」
「はい」
「女子は抱いたろう」
「いいえございませぬ。平には父上の他、思う相手はございませぬ」
 関平はきっぱり言い返した。
 関平の気持ちは始めから決まっていた。そして生まじめな彼が、心を伴わず誰かと寝るのをよしとしなかったのも当然の成り行きと言える。
 してみれば、聞いてみなくとも知れた答えだっただろう。
 生涯娶らず父に尽くさんと思い定めた十八の歳より、女も男もなく過ごしてきたのだった。
「では父の言う通りせよ。まず力を抜かぬか。これでは、なにもできぬ」
「は…はい…」
 ふう、と深く息をついたところ、そのほころんだ唇を関羽は塞いだ。
「ん…、ん……」
 応え方を知らない相手では接吻こそままならない。
 関羽はあきらめて首筋に舌を這わせた。
「あっ!」
 関平の体がびくりと大きく震えた。
 言わば関平はまだほころびも見えない硬い蕾だ。折られる前に急いで花を開こうとする姿は痛々しいが、その苦労をいたわってやる時間すら今はない。
「はあ、はあ…」
 こうして胸元に顔を伏せると、関平の体が既に熱く、荒い息を押し殺しているのが分かる。
 熟れるのを時間が待たない事情を埋め合わせようとしているのだろうか、彼の体は本人にもどうにもできないほど高ぶっていた。
 衣の合わせから手を滑り込ませ胸元に触れると、今回は悲鳴こそ飲み込んだものの、再び大きく体が波打った。
「苦しいようならば父にすがれ。腕を背に」
「はい」
 言われるままに関平は老いたりと言えどもたくましい父の体に頼った。
「父上、お慕いしております」
 再び二人は唇を合わせた。
 輪郭に手を沿わせ口を開くように促すと、差し入れた舌に自然と絡むものがある。
 関平が口付けに酔っている間に関羽は衣服を落とし、順に下肢へ手を伸ばした。
 そこは既に若々しく立ち上がっている。手の平で覆うようにして高めてやると、関平はすがる腕に力を加えた。
「ああ…、あ…あ。気持ちようございます、父上…」
 関平のものが立ち上がり切ってしまうと、関羽は口にくわえた。
「ああ…っ! 父上、なにを…」
 驚いて引きはがそうとする仕草が、次第に迎え入れるものに変わる。
 快楽が身を焼こうとする。その炎に素直に身をゆだねた。
「うっ…う。く…」
 あっけないほど簡単に関平は埒を明けた。これがまだほんのなかばとは知りもせずに。

「はあ、はあ…、あ…ああ…」
 伏して余韻を味わう関平を引き起こし、関羽は太股に手を添えた。
「平、脚を開かぬか」
「? はい」
 奥に指を触れられると、体を跳ね上がらせ、今度こそ関羽を押しやった。
「な、なにをなさいます父上!」
「…。知らぬと申すか」
「なにをでございます」
「男同士でどのように事をなすのか、知らぬのか」
「存じませぬ。なにも存じませぬ。色事など、縁遠きことでございましたから」
「左様か、では、」
 関羽は改めて息子の体を抱き寄せると、先程と同様に膝を割らせそこに触れた。
「ここで──」
 関平の体がまた押さえようもなく震えるのをなだめ、関羽は続けた。
「ここで父を受け入れるのだ」
「父上を…」
 かろうじて意味を悟ったらしく呆然とする関平をよそに、父は指を一関節差し入れた。
「あ…、く……」
「辛いか」
「いいえ父上。どのようなことでも耐えられまする」
 前を再びあおってやりながら指を進める。
 第一関節が根元までになり、一本だった指が三本に増えるころには、関平の吐息に明白な悦楽が混じり、かたくなだった体は柔らかくほどけた。
 父の首筋に縋りつく。
「う…。はあ、はあ…。ん──」
 苦痛になら屈しはしない関平だが、この甘い責め苦には弱った。
「父上父上、平は気がおかしくなりそうにございます」
 時節が到来したの知って関羽は関平の体を寝かせ、膝を立てさせた。
 なにがなされようとしているのか感じ取って関平は固唾を飲む。
 処刑を前にした罪人のように、覚悟を決めて目を閉じた。
「楽にしていろ。息をゆっくりと吐け」
 軽く唇を合わせてから、抱きかかえて中に押し入った。
「あ、ああ──っ」
 痛みに声が殺せない。しかしこんな時でも関平は我を忘れはせず、父の背に爪を立てることを恐れた。
「く……う…」
 衝動が過ぎ去ったのを見て取って、関羽は始めはゆるやかに律動を始めた。

「あっ、あっ、あ…ああ……」
「痛みはなくなってきたか。よいか」
 腰が押し付けられるのに合わせて声を上げるようになっていた。
「は、はい…。あ…っ、く…。ですが、なんだか今度は…」
「どうした」
「なんだか、おかしゅう…ございます。ん…っ。あっ…ああっ」
 深い快楽にとまどう様子に関羽は満足した。額に浮かぶ汗を拭ってやる。
「それでよい。逆らわず、流れに任せよ」
「は…い」
 寄せては返す悦楽の波に、身を任せようと関平は努めた。波が高まれば息を詰め、引けば息をついた。
 しかしついに耐えがたいほど波は高まり、堤を打ち破らんばかりに荒ぶることに関平は不安を感じた。もはや喜びとばかりは言い切れず、さいなまれているようでもあった。
「あっ…、父上、もう…おやめ下され。後生にございます。もう…もう……」
 もうこらえられませぬと言おうとして、ついに高波にさらわれた。
「うっ、くっ…、う…う…」
 体は意にならず痙攣し、声を上げることもままならない。食いしばった歯の間からもれる、吐息とも苦悶ともつかない自分の声を聞いたのがその終わりだった。


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