Top Next


次会う時は兄に戻ろうとあなたが言ったから、とわにあなたは私の情人。
今も私は雨にぬれています。雨に足をとめるほど、もう子供ではないけれど。



「こんなに雨が続くと、くさくさするな」
 思いがけない骨休めも、関平のような性格にはありがたくないようだ。
「私は雨は嫌いではありませぬ」
 陣中に居座る格好のいい訳ができて、関興は逆に喜んでいた。
 一晩だけ留まる予定であったから陣幕を特には張らず関平の陣に泊った関興はこれでもう三泊している。
 雨が降り始めてもう三日。
 火急の用さえ雨は押しとめる。雨の前にはすべてが許される。
 雨が降り続く限り自分はここに、兄のそばにいられる。

 二人は暇を持て余してしばしば碁を打っては雑事を話し合った。
 関興が言いたいのは主にはこういうことだった。
「なぜ父上は私を陣に加えては下さらなかったのでしょう。私はだってもう立派に戦えます」
「本城で母上や妹を守るのも大切な役目だ。だからこそ父上はお前を残したのだ」
 もちろん関興は納得しなかった。
 父は兄を始終そばに置いている。兄は兄で、呼ばれれば夜中でも喜んで飛んで行くのがいかにも関興の気に入らなかった。
 呼び付けられて出て行ったかと思えば、一晩中戻って来ないこともあった。
 兄が帰ってくるのをじりじりと何時間も待っている間、関興がなにを想像していたかは誰にでも分かるだろう。
 歳の離れた血のつながらない兄。彼と父の関係を、嫉妬から関興はもう長く疑っていた。

 その晩も関平が陣幕に戻ったのはもう空が白み始めてからだった。
「兄上…!」
 今か今かと待ち兼ねていた関興はたまらず関平にしがみ付いた。
「なんだ興。まるでがんぜない子供のようだな」
 関興がこんなにも切羽詰っているのに、関平は今にも頭をなでかねない。
 いつまでも兄の中で自分は幼い弟のまま。そう思うと関興はたまらなかった。
「兄上、心配しておりました。今夜はもうお戻りにならないかと」
「なにを心配する」
「興は兄上が好きなのです。だから心配なのです」
「私もお前が好きだ。当たり前だろう」
 ゆったり笑んでそう言う兄に、関興の感情の緒は断ち切れた。
「そうではございませぬ! 興はたとえ父上でも、兄上を取られるのは嫌でございます」
 関興は夢中で関平を寝台に押し倒して唇を押し付けた。
「なにをする、興!」
 袍をはだけさせて白い肌に顔を寄せる。
「兄上は興のものです。興だけのものです」
 関興はうっとりと言った。
「放さぬか」
「放しませぬ、もう。もうこれ以上待てませぬ、兄上」
「う…」
 両頬を捕らえて深く唇を結び、舌を絡めた。
「や、やめぬか、興。いい加減に…」
 そう言いながらも兄は殴ってでもやめさせようとはしない。その態度にかえって関興は矢も盾もたまらず、着物の裾を割ると、自分のものを手であおって兄に押し込んだ。
「ううっ」
「はあ、はあ…。兄上、これで兄上は、興のものです」
「く…」
 最初こそ苦痛に身をよじっていた関平だったが、関興の執拗な愛撫と律動に次第に痛み以外のものがにじんできた。
「ああ、興。はあ、はあ。興、興…! ん……」
 もはや関平がつづるのは制止の言葉ではなくなっていた。弟の名を、これまでに使ったことのないような声色で呼んだ。
「ああ…。兄上も感じているのですね。どこがよいのか教えて下さいませ、兄上」
「あっ、ああ…! 興、そこを……」
 相手が弟である気安さからか、関平は存外大胆に体を開いた。
「ああ……っ!」
 関平の顔にあからさまな快感が浮かぶ。日ごろの清廉な兄から想像だに付かないだけに、それはまことに関興の情感をそそった。
「うっ、うっ…。興、私は、もう…」
「いかせて差し上げます兄上、私が」
 いつも子供扱いされている兄を導ける喜びにひたりながら、関興は関平の腰をつかまえて激しく続けざまに打ちつけた。
「もう…。く、う──…」
 登り詰めたらしく、強く締め付ける兄の中に、関興は思いを遂げた。

「兄上は、父上とはなんでもなかったのですね」
 兄が不慣れであることは抱こうとして既に気付いていたが、だからといってそこでやめられるものではなかった。
「当たり前だ。馬鹿を申すな!」
 関平は血相を変えて怒った。
「ああ、こんなことになって、父上になんと申し上げたらよいのだ」
「父上になどなにも申し上げることはございませぬ。私と兄上だけの秘密にいたせばよいのです」
 どこまでも父を立てる関平とは違い、実子の強気かそれとも若さゆえか、関興は父に不平を鳴らすこともあった。もちろん、表立って申し立てたためしはなかったが。
 しかし、かつて涙など見せたことなどなかった兄が泣くのを見ると関興も胸が痛んだ。
「兄上、そんなにお嘆きにならないで下され」
「父上申し訳ございませぬ。お預かりしている父上の大切な息子に道を誤らせてしまい申した」
 しかし憐憫も度を越すと怒りに転ずるものだ。
「そんなに父上がお好きならば父上に抱いてもらったらよろしゅうございましょう! 大層よがっていたではありませぬか兄上。体が寂しいのではござらぬか」
「興!」
 怒号に近い勢いで怒鳴りつけられた関興は殴られるものと反射的に目をつぶったが衝撃はこなかった。
 恐る恐るまぶたを開くと、関平は真っ赤な顔をそむけて肩を震わせていた。にじむ涙は先程までとは意味が違う。それは隠し通してきた本心を言い当てられた恥辱だ。
「分かっておる。思うだけでも大それたことと分かっておる。だが思い切れども切れぬものを、どうしたらよい」
 あくまで誠実に父に思いを寄せる兄に関興はますますいら立ちを募らせる。
「父上はどうあっても、私を息子としか見ては下さらぬのに」
「兄上のお気持ちに気付かぬ父上のことなど、もうお考えになるのはおやめ下され」
 肩に羽織っただけのひとえの中に手を忍ばせ、そっとそこを捕らえた。
「あっ」
「父上はかわいがっては下さらぬのですか。こうして」
「ああ…」
 そうして兄の体の消え切ってはいなかった炎を再燃させた。
「父上はいつも兄上ばかりを大切にしておられる。私はてっきり兄上は父上のものだと思っておりました。父上が兄上にこのようにしているのではないかと想像しておりました」
 関興は耳を甘噛みし、首筋に舌をはわせながら指は巧みに兄を高めた。
「はあ、はあ、く、う…」
 関平は逆らうどころか弟にしなだれ掛かった。平時に聞けば憤死しかねない関興の戯言も耳に入ってはいないかった。
「これからは私がかわいがって差し上げます」
「興…。う……、早く…」
「私が欲しいのですか? ならばそう言って下され。興のが欲しいのだと、そう言って下され」
「ほ…、欲しい。ああ、興、欲しい…」
 満足してそれを聞くと、裾を割って脚を開かせおおいかぶさった。
「んん…っ」
 今回は関平も相手の背に腕を回し、迎え入れる体勢を取った。
「はあ、はあ、はあ…」
 吐息も体も深く混じり合い、二人は夜が明けるまで睦み合った。


Top Next