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ある秋口の夜。
関将軍は就寝前の読書にいそしんでおられた。
手にするものは無論、春秋左氏伝。
すなわち世に言う夜観春秋の図。ここが息子の私室の、しかも寝台の上であり、ご子息がかたわらですやすやお休みであるということを除けば。
いいかげん夜もふけたせいもあり、肌寒さを感じて関羽は書物を束ねると布団にもぐり込んだ。
「うむ。思いの他冷えたな」
肉体美に自信があるのは分かるがこの時期裸はいささか寒かろう。なぜ着物を脱いだのかなどと疑問に思うのは下種の勘繰りだ。
夏掛けの布団ではなかなか暖まらず、関羽はしばし思案の後、おもむろに息子の鼻をつまんだ。
「うう。うーん」
息子はさも迷惑そうにうなると寝返りを打って背を向けた。
起きる気づかいはないと関羽は得心して息子の腕を引っ張り、転がして胸元に寄せた。
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関平は不快らしくしばしもぞもぞとしていたが、枕が落ち着くと再び寝息を立て始める。
「おう。これは中々、いいあんか代わりよな。この安眠具合は武人としてはいかがなものかとは思うがな」
そう言う口元は笑っている。息子に取って自分のそばはこの天下でもっとも安心できる場所であるという自負ゆえに、この程度の息子の油断は快く許してやってもいい。
しかし安心はいいとして、安全な場所であるかどうかはまた別問題だが。
満足して関羽は息子の頬をなでた。
「悩みのかけらもないような顔をしおって」
関羽に言わせればそれもこれも自分のお陰だ。
本人が聞いていれば、一体どの口がそんなことをおっしゃるのかと怒ることだろう。
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翌朝。
そ知らぬ顔をして先に起き出した関羽が朝食の食卓についていると息子が怪訝顔でやってきた。
「なにやら、寝違えたか」
首筋を押さえている。
「父上、昨日の晩、私はおかしな格好で寝ておりませんでしたか?」
「む。いや、」
不思議と歯切れの悪い父に代わってその問に応えたのは、陰険な目つきをして立ちはだかった弟だった。
「なぜ! なぜ父上が、兄上の寝相を知っているわけがあるのですか!」
「あ、いや、その、なぜだろう?」
窮して父に救いを求めるが、関羽としては放置して見物したい気分半分、便乗して話をそらしたいのが半分だった。
「おかしいではありませんか兄上!」
「そう、そうだな。うむ、考えてみれば、父上がご存知のはずはないな。ねえ、父上、そうですね」
「…。ふん、父が知ったことか」
「そら、興、父上もああおっしゃっているではないか! なあ!」
関興が納得行かない様子ながらしぶしぶ引き下がったので、関平はそっと視線を送って父に謝意を表した。
「貸しにしておいてやる」
転んでもただでは起きない。
今朝も絶好調であらせられる関羽様だった。
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